1. COPDとはどのような病気か(原因・症状・進行)
**COPD(慢性閉塞性肺疾患)**は、以前「慢性気管支炎」や「肺気腫」と呼ばれていた病気の総称です。
長年にわたるタバコの喫煙(副流煙の吸入も含みます)などで肺に炎症が起こり、気管支(空気の通り道)が狭くなったり、肺の中の肺胞が壊れてしまった状態が続くことによって発症します。
主な原因は喫煙で、喫煙者の15~20%がCOPDを発症するとされています。
そのほか大気汚染や粉じん、職業上の粉塵暴露など長期間の有害物質吸入も原因になり得ます。ごくまれに遺伝的要因(肺を保護する酵素の欠損症など)で起こる場合もあります。
症状の特徴は、長引く咳や痰(たん)、階段や少し速歩きしたときの息切れなどです。
初期には風邪や加齢のせいと見過ごされがちですが、病気が進行すると日常的に呼吸が苦しくなり、胸が締め付けられる感じや疲れやすさ、体力低下が現れてきます。また、一部の方はゼーゼーと喘鳴(ぜんめい)が出たり、一時的に急激に息苦しさが悪化する発作を起こしたりと、ぜんそくに似た症状を併せ持つこともあります。
風邪やインフルエンザなどを契機に症状が急激に悪化し、いつもの治療では改善しない「急性増悪(きゅうせいぞうあく)」を起こすこともあります。
増悪時には息切れや咳痰が普段よりひどくなり、場合によっては命に関わることもあります。
COPDの進行はゆっくりですが、徐々に肺の働きが損なわれていく進行性の疾患です。一度壊れてしまった肺は治療で元通りに治すことが難しく、症状が少しずつ悪化していきます。
特に増悪を繰り返すと肺機能の低下が加速し、生活の質も大きく低下します。そのため、できるだけ早期に発見して適切な治療を始め、病気の進行を抑えることが重要です。
COPDは中高年以降(日本では平均発症年齢は約69歳)に多い病気で、喫煙習慣のある方に発症しやすいという特徴があります。
日本では40歳以上の約8.6%が該当すると推計されていますが、その多くは未診断・未治療と考えられます。世界的にもCOPDは死亡原因の第3位を占める深刻な疾患です。
- 日本呼吸器学会(解説) – https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html
- 環境再生機構(COPD情報) – https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/copd/
2. 最新の治療法や動向(薬物療法・非薬物療法・自己管理)
COPDの治療は、大きく「薬物療法」と「非薬物療法(生活習慣の改善やリハビリ等)」に分けられます。残念ながら根本的に治す薬はありませんが、適切な治療によって「息苦しさなどの症状を和らげ生活の質を改善し、肺機能の低下スピードを抑える」ことが可能です。
治療の第一歩は禁煙で、タバコをやめるだけで症状の進行抑制に大きな効果があります。
その上で症状に応じた薬物療法とリハビリなどを継続的に行っていきます。
薬物療法の中心は吸入薬による気管支拡張薬の使用です。狭くなった気管支を広げる薬として、長時間作用型の抗コリン薬やβ<sub>2</sub>刺激薬などが代表的です。これらは主に吸入器で吸うお薬で、毎日継続して使うことで息切れを改善し日常生活を楽にします。症状が強い場合は2種類の気管支拡張薬を併用したり、炎症を抑える吸入ステロイド薬を加えることもあります。近年では、1本の吸入器に3種類の薬(2種類の気管支拡張薬+ステロイド)を配合した**「三剤配合吸入薬」**も登場し、日本でも2019年に承認されました。最新の研究では、この三剤配合薬によってCOPD患者さんの症状コントロールや増悪予防効果が高まることが報告されています。
なお、症状が安定しない重症のケースでは、気管支拡張薬の内服薬(テオフィリンなど)や、気道の炎症を抑える経口薬が使われることもあります。
非薬物療法として重要なのが呼吸リハビリテーションです。
呼吸リハビリとは、息切れしにくい呼吸法の練習(たとえば口すぼめ呼吸や腹式呼吸)、運動療法(筋力トレーニングや有酸素運動)、栄養指導などを組み合わせて、肺や全身の機能維持・向上を図る包括的な治療法です。
専門施設で行うほか、簡単な体操や歩行訓練は自宅でも取り組めます。リハビリによって息切れしにくい身体づくりをすることで、日常生活動作(ADL)の改善や運動耐容能の維持に繋がります。また、進行した患者さんには在宅酸素療法(自宅で酸素吸入を行う治療)を導入する場合があります。
酸素療法を適切に行うことで、長期予後(寿命の延長や心臓への負担軽減)が期待できます。
さらに呼吸不全が高度になった場合には、在宅で使える小型の人工呼吸器(NPPVなど)をマスクで装着し、呼吸を補助する治療を行うこともあります。
一部の患者さんでは、外科的に肺の一部を切除して膨らみすぎた肺を縮小させる手術(肺容量減少手術)が検討されることもあります。
自己管理と最新の動向: 治療の効果を高め病状を安定させるには、患者さん自身が病気と上手に付き合うためのセルフマネジメント(自己管理)が欠かせません。具体的には、医師の指示通りに毎日吸入薬を使うこと、正しい吸入方法を身につけること、定期受診を続けることが基本です。
加えて、日常生活では息切れしにくい工夫(無理せずこまめに休息をとる、腹式呼吸で呼吸を整える等)や適度な運動習慣が大切です。
低栄養状態にならないようバランスの良い食事を心がけること、風邪や肺炎を予防するため予防接種(インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチン)を受けることも推奨されています。最近は患者さん自身が酸素飽和度(血中の酸素の指標)を測れるパルスオキシメーターを活用して体調管理を行うケースも増えています。
こうした自己管理の支援として、医療者が作成する「行動計画書(アクションプラン)」があります。例えば「痰の色が変わったら早めに受診」「息苦しさが普段より強い時は追加でこの吸入薬を使う」といった対応策をあらかじめ決めておき、悪化の兆候に迅速に対処できるようにする取り組みです。現在のCOPD診療では、薬物療法に加えてこのような包括的アプローチで増悪予防と症状コントロールを図る傾向にあります。
- 日本呼吸器学会(ガイドライン要旨) – https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html
- 環境再生機構(最新治療動向) – https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/59/medical/
3. 在宅医療・訪問看護における介入や支援の役割
症状が進行しても在宅療養を続けたいCOPD患者さんにとって、医療者による定期的な訪問サポートは大きな支えとなります。息苦しさや体力低下で通院が難しくなっても、訪問看護師が自宅に来てくれることで必要なケアを受けられます。訪問看護師は患者さんの自宅を定期的に訪問し、体調の観察や日常生活の支援を行います。
具体的にはバイタルサイン(脈拍や酸素飽和度など)のチェック、呼吸状態の観察、痰の量や色の確認などフィジカルアセスメント(状態観察)を実施し、わずかな悪化の兆候も見逃さないように努めます。こうした定期的な関わりによって、症状の早期発見と悪化防止が期待できます。
たとえば「最近咳が増えている」「息苦しさが強まって会話が減っている」などの変化にいち早く気づき、必要に応じて医師と連携して早めの受診や治療調整につなげます。
前述の増悪が起きてしまった場合でも、訪問看護師が適切に対応することで重症化を防ぎやすくなります。具体的には、吸入薬の追加や酸素吸入のサポートを行ったり、迅速に主治医へ連絡して指示を仰ぐ、緊急時は救急搬送の判断を手助けするといった対応です。
訪問看護師が定期的に関わることで「いざという時の安心感」が生まれ、患者さんも不安を和らげて在宅療養を続けることができます。
また、訪問看護師は患者さん本人だけでなくご家族への支援も重要な役割です。COPD患者さんの多くは高齢で、配偶者など家族による介護の負担も大きくなりがちです。
訪問看護が介入することで家族の介護負担が軽減され、介護される側・する側双方の生活の質が向上します。
たとえば、入浴や清拭など身の回りのケアを専門職が手伝うことでご家族の身体的負担を減らせます。さらに、訪問看護師が相談相手となって患者さん・家族の不安や疑問に答えることで、精神的なサポートにもなります。
「痰が増えてきたけど大丈夫?」「酸素ボンベの管理方法はこれで合っている?」といった日々の疑問を気軽に相談できる存在がいることで、在宅療養への安心感が高まります。このように専門職が身近に関わることで、ご家族だけに介護を背負わせずチームで支える体制が整います。
さらに、訪問看護師は患者さんの自己管理能力の向上もお手伝いします。呼吸リハビリの指導を行い、一緒に体操や歩行練習をしたり、酸素療法機器や吸入器の正しい使い方を指導したりします。
パルスオキシメーターの数値の見方や、息切れしにくい動作のコツを教えることで、患者さん自身が体調を把握しやすくなります。
入院治療を経験された方には、退院後もそのとき習った体操や生活上の注意点を続けられるよう支援します。例えば「退院時に習った口すぼめ呼吸を一緒に復習する」「栄養指導の内容を食事準備で実践できているか確認する」といったフォローをします。こうした継続的な関わりによって、患者さんは退院後もスムーズに在宅療養へ移行でき、入院中と同じようなケアを受け続けられます。
総じて、訪問看護師はCOPD患者さんとそのご家族にとって在宅療養のパートナーと言える存在です。治すことが難しい慢性疾患だからこそ、患者さんが「自宅でその人らしい生活を送りたい」という希望をかなえるために、医師・看護師・リハビリスタッフなど多職種がチームで支えていきます。
訪問看護師はその中で、日々の様子を見守り必要なケアを提供するキーパーソンです。適切な介入と支援によって、COPDの方でも住み慣れた地域やご自宅で安心して暮らし続けることができます。
- 訪問看護解説サイト(COPDと訪問看護) – https://iroiro-nurse.net/copd/
- 環境再生機構(増悪時対応) – https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/copd/例えば
「COPD(慢性閉塞性肺疾患)の基礎知識」へのコメント
コメントはありません